別々の2人

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「お客様。当従業員はお酌のみとなっております。お放し願えますか?」 臨時の店員だったとはいえ、毎年『レスター亭』を手伝っていたライアンの接客は完璧である。 それが例えどんな客であろうとも、その培ってきたスタイルは崩れない。 「あぁん?」 ライアンの目に映っている男が、眉間に皺を寄せながら振り返った。 「本日も御来店、誠に有難うございます。」 かなり酒が入っているのだろう。 赤らんだ男の顔を除きこみ、 「お客様。失礼ながらも、お客様のお膝をお借りしている従業員を、お返し願いますか?」 微笑を浮かべながら、男の膝に抱きかかえる様に座らされている女性を示す。 示された女性は、震えながら男の膝に子供を抱く様に、向かい合わせで座らされている。 見れば、女性というよりも、まだ幼さの残る少女だ。 アッシュと同い年位か? 確かに娼館じゃないけど…… 未成年が働くには、やや過酷な気がする。 そういう店なのだと理解はしているが、ライアンは溜息が出るのを留められない。 『カフェ&バー・ピーチ』は、そんな店だった。 ジーンに招かれて入店した『カフェ&バー・ピーチ』は噂通りの賑わいを見せていた。 店の大きさは『レスター亭』と大差は無い。 決して大きいとは言えない店内を、いっぱいのテーブルと椅子が並び、それを余り無しに客が埋めている。 店頭の煌びやかな明かりとは反対に、色取り取りのランプが照らす薄暗い店内は、幻想的と言うよりも成人男性が好む艶やかな世界を醸しだしている。 そこを20歳前後の若い女性、または少女が、酒を片手に接客していくのだ。 勿論、接客はお酌のみでお触りは禁止なのだが、酒が入った客が彼女達に手を出さないわけが無い。 娼館では無いと言われても、際どい服装の女性に「もう1杯いかがですか?」何て迫られたら、「お酒と、君、両方頂きまーす!」と言ってしまいたくもなる。 そんな接客なのだ。
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