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「お久しぶりです。」
騒ぎを聞きつけて、橘父が奥から顔を出した。
エプロンの粉を払い、店内に入って来る。
「また、よろしくお願いします。」
子供の頃は、熊のように大きかった橘父も、今では僕と同じくらい。
「大きくなったねぇ。」
頭を撫でられ、久しぶりの感触に頬が緩んだ。
僕の父は仕事で忙しく、滅多に家にいなかった。
今もそれは変わらない。
それでも淋しくなかったのは、必要以上にかまってくる母と、隣の橘家のお陰だった。
お腹が空けば、お店に出せないパンを貰い、
「ありがとう。」
と言えば頭を撫でられ、
「美味しかったよ。」
と言えば優しい目で頷いてくれる。
僕は橘父が大好きだった。
。
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