《第三章 ~lesmorei》

3/8
前へ
/27ページ
次へ
 左之助は昨夜遅く、診療所にいた。  あれから神谷家に戻ることなく、ぶらついている所を恵に連れてこられたのである。 「で、剣心の様子はどうなんでぇ?」  左之助は横にあるベッドに腰掛け、恵の顔を覗いた。 「かなりの重症ね。原因が判らないわ」 「そんな……何とかなんねぇのかよ」 「明日、横浜の先生を迎えにいくわ。有名な方らしいから」  そう言うと手元の資料を手渡された。その医師の写真や地元の評判、外国での勉学の様子が書かれてあった。  後は難しい外国語で読む気にならず、恵の前に放り投げた。 「私達ではどうにも出来ないのよ。玄斎先生が紹介して下さった方なの。――そこまで剣さんは悪化して……」 「バカな……。治んのかよ!それ」  恵は立ち上がり、左之助の両肩を掴んだ。 「そんなんだから、剣さんには必要なの。心が落ち着く所が……。アンタの側が!」 「――意味が分かんねぇ」 「剣さんはね、熱に浮かされた状態で、その手を求めていたわ。『左之助』ってね……」 「――……っ」 「お願い。側に居て。剣さんの為に。私と薫ちゃんの為に……!」
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

100人が本棚に入れています
本棚に追加