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左之助はその日、玄斎の所に泊まり、眠れない夜を過ごした。
玄斎が寝酒にと、持ってきた焼酎も飲み干したが、全く酔えなかった。好きな酒すら不味く感じ、体に染みこまなかったのである。
朝焼けと共に神谷家に向かい、剣心の看病を引き受けた。薫になんと言葉を掛けようか悩んだが恵に止められた。
重苦しい空気の中、平常心を保つのに必死だった。
薫と恵を送り出し、改めて剣心の部屋に向かう。昨日見たより少しやつれた剣心の顔に視線が合わず、逃げるように台所にいくと弥彦がいた。
「よう。弥彦。…朝飯あるか?」
「っていうか何処行ってた。……ったく何で薫を連れてくんだ?なぁ?あ、飯なら昨日の晩飯の残り物があるけど。それより、ウチらのご飯、これからどうすんだろ。赤べこか?」
弥彦の質問には答えず、とにかく腹を満たそうと、麦飯を味噌汁で流し込んだ。
「そうそう。恵がこの薬を飲ませるようにだってさ」
弥彦が紙袋を渡した。中には丁寧に処方戔があった。
「なぁ弥彦、悪りぃけど、赤べこに行ってくれないか?」
「は?なんで」
「いいから。……剣心と二人きりにしてくれ。そして妙と燕ちゃん連れて玄斎先生の所に行くんだ。で、剣心のこと詳しく話してもらってくるんだ。いいな」
左之助の言葉を理解出来ずにいたが、その様子が尋常でないことに気付き、竹刀片手に飛びだしていった。
「すまない弥彦。話せなくて。剣心は……俺が……きっと」
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