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茶碗に白湯を入れ、薬を盆に乗せる。お粥も少し持っていった。部屋につくと、微かに音がした。剣心が起きた気配。
覗くと、辛そうにしている剣心の顔が日の光に照らされていた。眩しそうにしていたから、障子を閉めるため窓にむかう。
「大丈夫かよ」
「左之助?……一人でござるか?」
弱々しい声で名前を呼ばれ、こちらまで苦しくなった。
「夢を見ていたでござる。昔の……」
薬を飲み、落ち着いたのか体を起こしたまま剣心は話し出した。
「夢?」
「人斬りの頃。血で血を洗う地獄のような日々。今でも残る、あの感触……。そんな中出会った一人の女性。……巴でござった」
左之助は黙って聞き入った。巴や縁の因縁は剣心にとって、全ての始まりであり終わりであった。
「何故今になってそんな夢などみるのでござろうな」
剣心は苦笑いを浮かべる。
「なぁ、もしもさ、それが薫嬢ちゃんだったら、良かったかも。俺にも会ってさ。弥彦は……産まれてないか。あ、俺も駄目だ。隊長と一緒だったし。っていうか嬢ちゃんはまだ子供だ。なーんてな」
左之助は、暗そうな剣心の顔を見たくなくて、例えばと冗談めいた話を始めた。
「ははは。確かに、面白かったかもしれぬでござるな」
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