《第三章 ~lesmorei》

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 新橋の駅に着いた恵と薫は急いで汽車に乗り込む。発車を告げる汽笛が構内に響き渡った。  機関車はゆっくりと、しかし力強くその巨体を線路に滑らせていく。横浜への数時間の旅へと。  まだ時間が早いせいか、乗客はまばら。  だが、大きな荷物を両手に抱えながらも楽しそうにしてる家族連れ。これから仕事に向かうのか、流行りのスーツに身を包む男性。  薫は賑わいを見せる車内の喧騒に少し眉をひそめた。  次第に速くなる外の風景を目で追っていたが、木炭の黒い煙や軋む車輪の音に頭が痛くなり、視線を天井に向ける。 「先生が直に東京にいらしてくれればいいのにね」  薫がぼそっと呟く。 「それは、急だったから。本当は明日の予定だったわ。だけど剣さんの容態を考えると……」  恵が小さな声で伝えた。 「そうなの……だったら尚更早く連れて行かなきゃね」  薫が寂しそうな笑顔を浮かべる。  汽車に乗ってどれくらい時間が過ぎただろうか。薫は持ってきた手提げ袋を開けた。中には巾着が二つ。  その一つを取り出そうとした時、大きく車体が揺れた。思わず手提げを床に落としてしまう。と、チリンと鈴の音。
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