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剣心は軽く咳をした。朝に渡された薬湯を飲んだ後は知らぬ間に眠っていたようだ。
左之助は昼飯にと台所に向かい暫くして戻ってきた。そのお膳には二人の分の昼食。
焦げた鯵の開き。胡瓜の糠漬け。味噌汁にお粥。
枕元にお膳を置き剣心に食べるよう促す。
「拙者、食べたくないでござる。お茶だけで……」
つい先程朝食をとったばかりだろうと思えば、時計の針は正午少し前。
「駄目だ!栄養つけないと治るもんも治らねぇ」
剣心は首を振るばかり。
「左之……拙者はもう長くないでござる。判るから……もう」
ガシャンと茶碗が音を立てる。剣心の胸ぐらを掴んだ為に枕元の膳が揺れた。
「バカな事を言うんじゃねぇ!!今、嬢ちゃんたちが何しにいったと思ってる……お前がこんなに弱ぇ奴だと知らなかった。飯が要らねぇってんなら無理に食わなくていい。――だがな!二度とそんな事言うな!」
左之助は突き飛ばすように手を離す。
呆然とした剣心に目を合わせずに、溢れた茶碗を引っかくように集めて出ていこうとした。
「ま、待って……左之!行かないで欲しいでござる!もう……ないから……」
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