《第四章 ~》

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「剣心?」 「すまない、でござる。もう言わぬから……側に……」  左之助は膳を廊下に出し、剣心の横に座る。  絡みつくように左之助の腕に寄りかかる剣心の髪に指を滑らせる。柔らかな髪がふんわりと落ちた。  剣心は甘えるように暫くその身を委ねたまま、左之助の顔を見上げた。  左之助は少し怒ってるかのように眉を吊り上げていたが剣心と目があうと、フッと笑みをこぼした。 「ったく……何を言うかと思えば阿呆なことを。――まるで子犬か何かみたいな奴だ」 「――拙者は犬ではござらぬ!ただ……」 「ん?」 「何でもないでござるよ」  剣心はそっと左之助から体を離し、乱れた着物の襟を整えた。  左之助が廊下に出したままの膳を拾いあげ、片付けてくると立ち上がる。 「辛いなら寄りかかればいい。俺が居る。側に居てやる。だからもっと俺を信頼しろ……な?」  背を向けたまま襖を閉める。悪一文字の印半纏が太陽に反射して一層大きく見えたのは剣心の錯覚だったのか。  左之助が去った後、剣心は薬を飲んで再び布団に潜り込む。湿り気のある咳を二、三度吐いた後は深い眠りに落ちた。
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