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庭に出てみると、去年植えた薄紅紫の沈丁花が美しい香りを纏い、静かに咲いていた。
玄関に気配を感じ、出てみると、弥彦が妙と燕を連れてきていた。
「おい、剣心は?」
弥彦は下駄を脱ぐのも慌てて飛び込んで来た。
「ちょっと弥彦!ただいまは?…剣心なら大丈夫よ。今は眠ってるから静かにしてね」
妙はゆっくりと薫の着物の裾を引っ張る。
「今、小國診療所に寄ってきたんやけど……大変みたいやね。恵さんが言わはったんやけどね……」
「そう、じゃあ知ってるのね」
薫は妙だけを自室に招く。
燕は弥彦に付いて、剣心の部屋へ走って行った。
「先生に聞いてきたのね。じゃあ話は早いわ」
「余計なことして申し訳ないどす。やっぱり……剣心さんは」
「ええ。本人には流石に言ってないけど」
倒れたあの日、玄斎は診察し、剣心は不治の病にかかった可能性があると告げられたのである。そしてそう長くはないと。
「もしかしたらあのまま目覚めないんじゃないかと思って――でも、きちんと調べてみるとは仰っているんだけど」
そう話す薫の肩が震え、裾を握る手に力が入る。
「明日、横浜に居る玄斎先生のお知り合いに診察して頂く事になってるの」
薫はうつ向いたまま小さな声で呟く。
「もう……休ませてあげたいのに…」
「薫ちゃん…」
妙は掛ける言葉が出てこない。
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