笛の音

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そんな風に自分に対する自問自答を繰り返しながら、その日もいつもの様に少し荒れた町を歩いてた。 どうしてなのかはよく分からないが、僕の笛の音を聞いた人はほんの少し幸せになれる。 笛を吹くと、体が重くなったり疲れたりするので、多分僕の何かをそういう力に変えているんだと思う。 だから、一日にあんまり沢山の人を幸せにしたりしない。 今日、少しだけ幸せになった人は三人。 風をひいていた少年、少しだけ熱が下がった。 空腹だった乞食、上手く食べ物を拾った。 腰が痛かったお婆さん、ちょっぴり痛みが和らいだ。 その音色にどんな効果があるのか知らないが、笛を吹くと、その音を聞いた人がほんの少し幸せになれる。 そんな程度、だけど僕は満足だった。 だって、今までだってずっとこうだったのだ。今更贅沢は言わない。 ちょっとも幸せにならないより、ちょっと位幸せになったほうがいいに決まってる。 そういう風に、僕は満足していた。 「次は東の町かな、あそこもそろそろ荒れそうだ」 そう呟いてその町を後にしようとした時、ふと、町外れの家の窓が目に止まった。 何の事はない、普通の家。 その窓の中には少女が一人、部屋で本を読んでいた。 華奢な背中がこっちを向いている。 が、僕の目には黒装束で大きな鎌を持った男が重なって映った。
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