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6月6日 二
夏先の海で君は決して混じりきらない二つの幻を視た。
完全なる蒼が、真っ白な息を吐き出して、新たな蒼を生もうと、していたように、
割り切れなくなった質量、それが君の思惑だったのだろう。
ト、プンと音がして私は二十二時間存在について考える。
私たちはおそらく一年の三百十六日くらい損をしていた。
君は知らないかもしれないけれど砂浜についた足跡は誰のものでもない。この水がどこから流れてきたのかわからないように私はやがて干からびて、
失われた体温は沢山の足を生やすことを約束してくれた。
(……そうして足跡は誰のものでもなくなってしまった……)
遠くに見える太陽はちかちかと点滅を繰り返して私たちの染まりきらない肌を変えていく。
白人の少女がハンバーガーを口にすると黒人の少女はモーニングコーヒーを注文する。だから白浜町は今日も雨だった。
悲しいくらいに冷たい雨。
……君が、少しでも口を開けば雨が私を溺れさせる。
今朝砂浜に打ち上げられた死体はもはや性別どころか肌の色さえもわからなくなっていたことにより、あれは本当に純粋な人間だったのかもしれないと庭師の友人は呟いた。 私には目があって鼻がある。
日本人だと叫んだ黒人が二十四階建てのビルから飛び降りた時に白人が空へと浮かび上がったのを私は確かに見たし、彼が着地した先はコンクリートではなく、小さな海だった。
なにもがもが認識の不毛に疲れてしまっている。
私が秋の尻尾を追いかけていると友人の飼っていた犬が私を強く睨みつけてきた。
あいつの鼻は、幽かに上下に動いていて、鼻水に濡れた黒は、きらきらと光を放つ、
それにより私はまた帰る場所をなくしたのだと気付いた。
おかげで私の損は僅か三時間と二十四分ばかり短縮されることとなり、呻りをあげたあいつは体を九の字にして飛んだ。
ぎゃん、ぎゃぎゃぎゃん。
私は彼に云った。
光あれ。
すると闇が出来た。
私がさよならと呟いた日も白浜町は雨だった。
来年の今日も雨に違いない。
目の前にモーニングコーヒーが用意され、ハンバーガーを持った店員が歩いてくる。
何気なく外を見ると、海が見えて、そこには、やはり。
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