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6月6日(金)
振り返らなかったのではなく振り返れなかったのだと気が付いたのは二十四の時だった。
「ねえ、ポール。
見つけたわ。見つけたのよ」
「何をだい? アルチュール」
隣でそんな会話がされていたかどうかは知らないけれど、この夏二十四となった僕はシャルルヴィの街にてバスに乗って柵に囲まれた羊を見ている。
迂闊だったのは外国人も日本人と同じ人間であって、珍しさの定義なんて何処に行こうとさして変わらないということ。
窓から長閑な景色を眺める僕にブルーの瞳した少年が仕切りに話しかけてたのだが、そのあまりの早口に僕は少年の撒き散らかす言葉をついばむ九官鳥となってただ一部一部を繰り返してはa-と囀った。
「a-aa、a-」
大学を卒業してからというもの僕は働きもせずに高校時代からのライフワークである海外のグラマラスな肉体美の鑑賞に専ら力を入れる日々であった。
昨日はジェーンだったし一昨日はケリー、その前なんかはヒラリー(これについてはエクスキューズがあって決して三次元ではないと言っておく)。
大学を卒業する前に就活をしたまでは良かったのだけれど、出張なんて枕が変わると寝れなくなる僕には考えられなかったし、汗水垂らして頭を下げるなんてのはもっと御免だった。
(……君を審査する面接官がピカリと光る人工太陽や偽りのジャングルを備えていた場合、そんなところで働くなんてのはキチガイじみていると思わない?
僕は思った。すごく。
どいつもこいつも明日にはイカレテしまうんだ。きっと)
東京砂漠だのなんだの昔に聞いたがきっと今では日本中が渇いているに違いなかった。
オアシスなんてない。何処にもない。何処にも/何処にも。
「――永遠」
所謂自宅警備員になって一年が経とうとした頃、総合失調と診断された僕はそれらしい病院に通院する事となった。
ある日待合室で座っていると入院患者らしきおじさんが「ヤクルトスワローズの野村監督」云々を壁に向かって延々と話していたので僕はなるべく目を合わさないように外を見ていると、一羽の燕が雲より全円をあらわしたばかりの太陽おわす天へと羽を広げて行った。
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