六月

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 それが僕の幻覚だったのかどうかは知らない。だけど「そこは鷲にしとけよバカヤロウ」と心の中で三度も呟いた。 * 「メェ~メェ~」  話はまた灼熱のシャルルヴィに戻るわけだけれど、  すでに少年の姿は僕の目の前にない。つまみあげた単語を親鳥が雛に餌をあげるよう(疑問系というスパイスを加えて!)繰り返す僕に呆れ果てて何処かに行ってしまった。  残ったのは見知らぬガキに馬鹿にされ、僕は何の為に此処にいるのだろうという疑問。  そもそもこのバスは一体何処に向かっているのだと。  栓を抜いた麦酒のように僕の頭は泡となり溢れ出た挙げ句一切は消えてしまった……。 「Ok、Japone-ze。  Ninja、Samurai、SushiGeisha。KeizaitaikokuNippon!」  後ろの座席から声が聞こえてきた直後に太い腕が伸びてきて僕の肩を叩いた。そして驚く僕に如何にもサムといった大柄な男が陽気な笑顔を見せながらガムを手に握らせてきたのだ。  ……シャルルヴィの人間から感じた熱帯の物憂さと押し合う群衆による鎮魂歌はオルペウスのメロディとは程遠いはずなのに僕の肌を硬直させてしまう。  羊の鳴き声が一際大きく僕の耳に入り、冥府の入り口を僕は、見たのである。 「永遠はね。  ……太陽と溶け合った海のことだったのよ」  もしも明日雨が降ったら飛行機に乗らずに自殺しようか。  僕はバスから下りて羊に駆け寄り力一杯抱き締めた。  彼女はキチガイみたいに叫びながら僕を突き飛ばして、僕は馬鹿みたいに尻餅をついた。  君の気持ちはよくわかった。  ところで明日の天気を知ってる? 夏に降る雪があっても良いかもしれないね。  夜のシャルルヴィをサムからもらったガムを膨らませながら歩いていると、何の前触れもなく矢のような雨が降り出してガムは顔中に弾けてしまった。  顔を洗うように雨の降りつける空を見上げると、雨を切りながら一羽の鷲が天へと上がるのが見え、それはやっぱり僕の幻覚なのだと思うのだけれど、許された気がして涙が流れた。  これがあるから天気を気にしてはいけない。濡れ鼠はめくら鼠へと変わってしまう。 「a-aa、a-」  言い終わった後、  声を出して僕は泣いた。 .
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