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「結構動けたな」
宿と隣接する菜館(ツァイカン)で食事をつつきながら紅焔が口を開く。ちょうど唐揚げを頬張ろうとしていた朱夏は箸(はし)を一瞬止めて頷いた。
「そういえば、東に《凶…」
しん、と不意に訪れる沈黙。振り返ると、菜館中の視線がこちらを向いている。
「その話は、するんじゃないよ坊や達」
妙に気迫のある女将の声に双子はきょとんとした。
「ここは東じゃないのに?」
紅焔の疑問に隣の卓にいた男が答える。
「奴さん、今じゃあ東を狩り尽くしたって噂だからな」
「3年で?そりゃ無茶な」
この国は、かなり広大な地と多くの民を抱える。紅焔の返しはもっともだ。
「噂じゃあ、奴さんは人じゃないらしい」
今度は朱夏と紅焔の方が表情を変える番だった。―それは、自分達も同じことだ。
「そう、なんだ」
朱夏の呟き。彼は手にしていた器をすっかり空にしてから席を立った。
「やれやれ…」
朱夏の考えなんかお見通し。紅焔は苦笑して勘定を済ませた。
翌日、2人は東に向かっていた。
「こんなこったろうと思ったぜ」
「持つべきものは片割れだ」
しゃあしゃあと言い返す朱夏を少々憎たらしいと思いつつも、紅焔自身も《東の凶君》に興味を持ったのは否めない。
もし彼―もしくは彼女が自分達と同じ存在ならば…。
「会ってから考えるか」
紅焔は腹を括って朱夏を追走した。
通称、炎を操る双子。
――紅と蒼、鳳凰と竜の邂逅(かいこう)はもうしばらく先のことになる。
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