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(やっぱり、駄目なのかもしれない)
ふと、脆弱(ぜいじゃく)な思考に囚(とら)われる。それを振り払おうとかぶりを振った瞬間。
轟、と風が烈しく凪いだ。
「諦めんじゃねぇよ」
風の向こう側に現れたのは、馬に乗った小柄な人影。外套(がいとう)をすっぽりと羽織ったその人物は、黒毛の馬から飛び降りたかと思うと自身の身長よりやや短い三節棍を構えて横に薙ぎ払った。
「終われっ!!」
再びの烈風に、鮮血と悲鳴が踊る。未知の体験に白嵐はざわりと全身を震わせた。
「……怪我は?」
恐怖で僅かな間飛んでいたらしい意識が、声につられて戻ってくる。
人影は、白嵐を面白そうな視線で外套越しに見ていた。何となく、わかる。
「あの、あなたは」
「結馬(チィェマ)。アンタの守護者だよ、白嵐」
名乗りと共に晒(さら)された顔は、白嵐より2つ3つ年上であろう娘のもの。予想通りに気の強そうな瞳が楽しそうに笑っていた。
白嵐は、守護者という言葉に戸惑いつつも結馬に頭を下げてから尋ねた。
「助けてくれてありがとうございます。貴女が僕の守護者だと言うことは、ご存知なんですね――《竜鳳天獅》を」
「勿論。この前まではただの御伽噺(おとぎばなし)だと思ってたがな。……でも今は時間が惜しい」
「逃げて、さらに他の2人を捜さなくてはならない……行きましょう」
決意も新たに言う白嵐を見て、結馬は薄く笑った。
「さすがは西の賢聖、箱入りの割に話がわかってる。行こうぜ」
白嵐と結馬は、夜の闇を駆け抜けた。
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