第二話 真夜中の鎧武者

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『儂はまた四国に戻り、一からその……生きる意味とやらを探してみることにする』 校門の前。 隠神刑部は七人にそう言って深々と頭を下げた。 『ジイさん、養生しいや。人に悪さしたらあかんでぇ』 朱雀の言葉に、深い皺を寄せて隠神刑部が笑顔を作った。 その表情はまるで憑き物が落ちたように穏やかに感じられた。 「……刑部さん、一枚、いいかな?」 そう言いながら相模がカメラを構える。 『うっ……!それは命を吸い取ると言われておるものではないか!?』 カメラを向けられた瞬間、隠神刑部がじりりと後ずさる。 『迷信ですのー!大丈夫ですの!』 『そうそう、そうやって徐々に文明の利器に慣れていきなさいよ』 直立不動で汗をだらだらと流す隠神刑部を一枚、パシャリ。 「よし!ありがとう、刑部さん」 『むぅ……自らを撮られるとは不思議なものじゃな……では、儂はこれで』 もう一度深々と頭を下げて、隠神刑部は歩き出した。 「隠神刑部のおじいちゃん!ボク、四国遊びに行くからね!」 隠神刑部の後ろ姿に神野が手を振った。 力強く何度も振った。 隠神刑部の姿が見えなくなるまで神野は手を振り続けた。 「さて、帰るか」 背伸びをしながら天田が欠伸混じりに呟く。 「でも、今日の相模くんはかっこよかったねぇ」 「ああ。『生きる意味はあるなしで決めるものじゃない!』だっけ?胸に響くものがあったな」 「いや……まあな」 二人に誉められて相模は恥ずかしそうに頬を掻いた。 『流石は我が主でゴザルな』 そう言いながらヴィシュヌもうんうんと頷く。 「いや、みんなの力だよ。特に、ヴィシュヌ。ありがとう」 『なに、拙者は当然の事をしたまででゴザル』 『……なんか耳に痛い言葉やなぁ』 『そうですの!これじゃあ、アタシ達が役に立ってないみたいですのー!』 『まあまあ、ひがまないの!さ、私達は退散退散』 サラスヴァティの言葉をきっかけに四神が光の渦に呑み込まれた。 「さ、俺達も……」 サラスヴァティ達を見送り、帰ろうとしたその時だった。 「うわあああ!な、な、中庭がぁ!」 校舎から用務員の叫び声が聞こえた。 「……やばい!」 「みんな、走れ!」 三人は全力で真夜中の町を走った。
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