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詠詩は唇を噛んで、俺を見上げた。俺と詠詩は頭ひとつ分の身長差があったから、詠詩は伸び上がるようにして顔を近づけてきた。
細い腕が、俺の首を引き寄せた。
「拓人……キスして」
長い睫毛が小さく震えた。俺は息をゴクリと飲んだ。
「早く、誰もこないうちにして」
甘えを含んだ唇が開いたかと思うと、そこから覗いた舌先がのびて、俺の下唇を舐めた。詠詩は邪魔な眼鏡を外すと、俺の唇が下りてくるのを待った。長い睫毛に縁取られた瞼がまたたくと、切れ長の二重瞼がゆっくり閉じた。詠詩の綺麗な顔を間近に見て、俺の下腹部がズキンと重く疼いた。
「早く、して…」
「うん。わかったよ」
俺は詠詩の身体を抱き締めた。薄く開いていた唇に自分の唇を押しあてた。腕のなかの詠詩は華奢だった。抱き心地を確かめながら、合わせた唇を吸うと、詠詩が唇を大きく開いて俺の舌を招き入れた。差し入れた舌に、熱い舌が絡んでくる。…つまり、俺と詠詩はこういった関係なのだ。互いの唇を貪りあっているうちに、詠詩の腕が俺の背中にすがりついてきた。抱き返すと、甘い喘ぎを洩らしながら、俺の背中に爪を立てた。
近づいてきた足音に、ハッと我に返った。突き放すようにして詠詩の身体が離れた。
そこに、教室のドアが開く音が響いた。
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