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おっと、これはヤバい!帰り道の街灯の下で、腕時計を見た俺は慌てて走り出した。
時刻がとっくに10時を回っていたからだ。
俺はエイジの家に電話すると言ったのをすっかり忘れていた。
詠詩(エイジ)も章と同様に俺の幼なじみで、詠詩は俺のクラスの学級委員を務めていた。つまり、俺とちがって頭のできがいいのである。俺はその詠詩に、宿題でわからないところがあるから、電話すると言っておいたのだ。
俺は歩道橋の下にある電話ボックスに飛び込むと、財布から取り出したカードを差し入れた。
「あ…夜分遅くにすいません。俺、榎本です。詠詩くんをお願いします」
受話器を握った俺は、少し緊張していた。電話に出たのは詠詩の一番上のお姉さんで、詠詩には上に姉が三人もいた。
『少々、お待ち下さい』そう言って、回線が切り替わった。
「あっ…詠詩か?……ごめん。かけるの忘れてた」
『タクト。いま何時だと思っているんだ?』
冷や汗が滲み出てきた。詠詩か不機嫌そのものの声であとを続けたからだ。
『僕は、拓人が8時に電話をかけるって言うから、かかってくるのをずっと待っていたんだぞ』
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