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「だから、ごめん。ホント悪かったと思ってる。章の奴がきてたもんだから、話し込んでて遅くなってしまった」
『章くん、またきてたの?』
おっと、詠詩の声のトーンが低くなった。響きのある声に凄まれて、俺は弱った。だから、なるべく明るく応えることにした。
「ハハハ。しょうがないだろぉ~。おまえと俺と章は、幼稚園からの付き合いなんだ。あいつ、ひとりっ子だろう?だから、俺のこと、ヘンに頼りにしてるかなぁ」
『僕だって、ひとりっ子みたいなものだよ』
「そ…そう、だったな」
思わず頭を掻いてしまった。こういう時は、逆らわないのが一番だった。
詠詩には姉が三人いるが、すぐ上の姉さんと詠詩の年は、七歳も離れていた。上の三人が年子ときているので、姉と弟の複雑な関係なんて、俺には想像が及ばない。
『タクトが、数字の宿題を教えてくれって言ったんだよ。それなのに……。僕はお風呂に入るから、この電話切らせてもらうよ。教えてほしかったら、明日の朝早く学校にくるんだね』
「お、おい、…詠詩っ!」
電話が切れてしまった。詠詩のヤツ。これは相当おかんむりなのだ。
詠詩はクラス委員をしているので、毎朝ショートホームルームが始まる一時間前に学校にきているという、クソがつくほど真面目な模範生だった。成績がいつも学年の五番内に入ってるので、俺はその頭をとても頼りにしている。
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