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二人は満足気に起きあがる。
少年の方は特に興奮した様子だ。
「なあ、いい考えってどういうことだ?」
少年が訊ねた。
少女は身体についた草の葉を払い落としながら、新しい発見をしたような笑みを浮かべている。
「オースティン・グニル。キミの単純な考えはたまに凄く刺激的ね」
「馬鹿にしてるのか?」
「半分はね。魔素は流れてるのに、アクセスポイントまで遠いのなら、中継点を作ればいいんだ」
少年は、理解出来ていない様子で首を捻る。
言っていることは難しい言葉ではないが、それがどういうことなのかが理解出来なかった。
「だから、魔素の中に疑似アクセスポイントを組み込んで、どこでも魔素を引っ張ってこれるようにするんだよ」
「それって可能なのか?」
「可能なら今頃全世界で魔法が使われてるわよねぇ」
「そっか……」
肩を落としてため息をつく。
自分よりずっと成績のいい彼女なら、と僅かな期待をしたのだが、やはりそんなことは出来ないらしい。
そもそも、少女も少年とさして歳の変わらない子供だ。
そんなこと出来るはずがない。
しかし、少女は笑って言う。
「今は無理でもいつか出来るかもしれないでしょう?」
「まぁな。俺がこの町を出る前にそれは可能?」
「やってやるわよ。私が、ただの付き合いで君と同じ魔導学を勉強してるとでも思う?」
(違ったのか……)
少女の言う方法での魔法の汎用化。
それは、決して簡単なことではない。
だが、それもやはり、“いつかは”と夢見ることが許された希望であると、彼らは知っていた。
「君は、どんな魔法が使いたいんだい、オースティン・グニル」
「どんな魔法か……」
魔法が使いたいという気持ちばかりが先に出て、利用方法について考えたことはなかった。
少年はしばし悩んで、ふと少女の横顔を見て思いつく。
「物騒な世の中だからなぁ、何か攻性魔法がいいかな」
「へえ、意外と現実的だね。てっきりもっと奇跡みたいなことを言うのかと思った」
魔法は決して奇跡ではない。
それは、誰でも知っていることだ。
奇跡のような現象に人が勝手に「魔法」などと名づけて呼んではいるが、いつ科学の中に吸収されてもおかしくはない。
実際、デバイスをはじめとする機械によって魔法の効率化が進んでいた。
だがそれ故に少女の言う絵空事――中継点すら、その一つになり得るのだ。
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