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最初から失敗の可能性はあった。
もちろん、レイヤはそれに同意した。
だが――あまりの仕打ちだろう。
人間としての一部と、夢まで奪うなんて。
何故――?
何故、こんな馬鹿げた理論を開発した?
いったい誰が――?
それは、母親の名前を借りて調べればすぐにわかった。
グリモワール・テイン教授――あの新理論を開発した学者が発案したものだった。
フレイは教授を憎んだ。恨んだ。
大切な妹が、こんな目に遭ったのは教授のせいだ。
この憎しみをどう晴らせばいい?
だが、教授はそれすらさせなかった。
――死。
教授は18歳という若さで亡くなった。
抗議の言葉一つぶつける間もなく逃げたのである。
やり場のない怒りが込み上げた。
悔しさと、歯痒さがフレイを支配した。
だが、偶然にも――いや奇跡か、その恨みを晴らすチャンスはまだ残されていた。
グリモワール・テインはまだ生きている。
レイヤと同じ方法で、生きながらえていたのだ。
社会から逃げおおせ、誰から非難されることなく今もどこかに存在している。
そんな、ごく一部の人間だけが知る情報を、貴族魔導士とデバイス研究者の娘であるフレイは手に入れることが出来てしまった。
この天運、逃すわけにはいかないと思った。
母の名を使い、時には危険な橋を渡りながら、フレイは情報を集めた。
『彼女は魔導デバイスに――』『愛用していた懐中時計で――』『同郷の少年が――』『隣国の地方都市で――』『懐中時計の形状は――』『少年の容姿は――』
とにかくフレイは何ものにも目をくれず集まった情報を元に王都を出ることを決意した。
レイヤにそのことを打ち明けると、ただ静かに頷いて、同行を選んでくれた。
そして、実家にある魔導書を母の目を盗んでいくつか持ち出し、フレイは出発したのだった――レイヤの無念を晴らす復讐の旅へ。
隣国地方都市に着いてすぐ、まずは情報のネットワークを築こうと思った。
社会の裏側であればあるほど、母の名は通用する。利用出来るものは全て利用する。
そう思っていた――そんな矢先の出来事である。
情報に一致する少年が、なんと同じ列車に乗っていたのだ。
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