第一章 言い伝え

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雨と少し霧がでてきたせいではっきりとは見えないが、境内に人影みたいなものが目に入って来た。 佐吉は唾をごくりと飲み込み恐る恐る近付く。 この神社は以前より幽霊が出ると噂がある神社なのだ。しかし、一方で若者たちの間では別名夫婦神社ともいわれている。 幽霊が出るということで皆、肝試しがてらこの神社へ若者たちが遊びにくるのだ。 そこで怖がる女を宥め、男を見せ付けるのだ。そうして結ばれる者が多いというわけだ。 だが、佐吉には今はそんな“縁結び”などといった言葉など頭になく、ただ幽霊という言葉だけが頭に浮かぶ。 『お、おい!雨に濡れるぞ。』 佐吉は勇気をだし、恐る恐る問い掛けてみた。 … なんの反応もないことに、佐吉は更に恐さを増した。 『な、なあ。』
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