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ふと、佐吉はその顔に見覚えがあることに気が付いた。
『お前は、あ、その、
あなたはもしやお蘭さんでは。』
「ええ。そうです。」
お蘭は村1番の美人で有名な娘で、少し前の佐吉には全く興味がない人だった。
だが、今は違う。
『な、なにをしているんだい。こんなところで。』
よくよく話しを聞くと、どうやら父親の束縛に耐え切れず家出をしてきたという。
『そうかい、で、これからどうするんだい。』
「それは…わかりません。」
『わかりませんって。
こんな場所にあなたほどの美人、あ、いやっ、若い娘が一人でいたら危ない。それに濡れたままでは風邪をひいてしまう。』
「でもいくところがないのです。」
佐吉は考えた。
どうすればよいのか。
このままここに独り残すのは心配だ。が、自分には仕事がある。どうすれば…
「実は…私も不安でどうしたらよいのか。あの、ご迷惑でなければ、少しの間でよいのでワタシクと一緒にいてくれませんか。」
…佐吉は悩んだ。
仕事に行かなければならない。でもお蘭さん独りになんて…
『。。。私でよければ』
佐吉は初めて仕事以外のものを優先した。
そして同時に二人の歯車が回り始めた。
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