1360人が本棚に入れています
本棚に追加
すぐにエレベーターの脇にあるテナントの看板をチェックした。
他の階には何かの会社らしき表示があるが、地下二階は空きになっている。
自分も地下二階に降りようかと思ったが、止めた。何があるのか見当もつかないし、危険だ。
後で頼久に調べてもらった方が無難だろう。
ビルから出て、路地から元の通りに戻る。身につけていた手袋を外し、携帯電話を取り出して、通話ボタンを押した。
「はい」
「理緒か?」
「あたしのケータイよ。他に誰が出るの」
理緒の言葉は無視して、用件を切り出す。
「どうやら浮気じゃないらしい。何があるかもわからないビルに入っていった」
「何よそれ。浮気じゃないなら何なの?」
「今はわからない。とにかく、もう少しビルの様子を見てみる。近くで暇を潰しててくれ」
「こんな所でどうやって暇潰すのよ? コンビニくらいしか見当たらないわ」
圭も電話をしながら辺りを見回してみる。確かにオフィスビルばかりで店はない。
「まあ、なんとか頼むよ」
「一応助手だしね。そうする。じゃあ、頑張って」
「何かあったらまた連絡する」
「了解です」
電話を切った。
歩道にある電柱に体を寄せる。ポケットから煙草を取り出して、火を灯した。
この場所からなら、慎治が消えたビルに入っていく人物を観察できる。
一つ息を吐いた。
ただでさえ白い息が、煙草の煙も混じり、余計白い。
時々前を行く通行人が、圭に冷たい眼差しを投げかけてくる。
「愛煙家は肩身が狭いな」
呟きながら、まだ長いままの煙草を携帯灰皿に押し付けた。
五分ほど経った時、やけに恰幅の良い、いかにも金持ちといった感じの男が、路地に入っていった。
慎治が消えたビルに、その男も消えていく。
ちょうど入れ違いで、ビルから一組のカップルが出て来た。
その筋の人間である事を強調するかのような、サングラスに高級スーツ、派手な指輪を身につけた男。女からは水商売の雰囲気が漂っている。
大体、ビルの中にあるものの見当がついてきた。
寂れたビルの地下。
朝まで帰らない慎治。
慎治が使い込んだ五百万。
その三つの事実から予想は出来たが、出入りする人間を見て、その予想が確信に変わった。
念の為一時間ほど様子を見たが、やはり入っていくのは金持ちらしき人間と、ヤクザの匂いがする人間だ。
理緒に電話をかける。
今日これ以上見張っても、収穫はなさそうだ。
最初のコメントを投稿しよう!