尾行

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すぐにエレベーターの脇にあるテナントの看板をチェックした。 他の階には何かの会社らしき表示があるが、地下二階は空きになっている。 自分も地下二階に降りようかと思ったが、止めた。何があるのか見当もつかないし、危険だ。 後で頼久に調べてもらった方が無難だろう。 ビルから出て、路地から元の通りに戻る。身につけていた手袋を外し、携帯電話を取り出して、通話ボタンを押した。 「はい」 「理緒か?」 「あたしのケータイよ。他に誰が出るの」 理緒の言葉は無視して、用件を切り出す。 「どうやら浮気じゃないらしい。何があるかもわからないビルに入っていった」 「何よそれ。浮気じゃないなら何なの?」 「今はわからない。とにかく、もう少しビルの様子を見てみる。近くで暇を潰しててくれ」 「こんな所でどうやって暇潰すのよ? コンビニくらいしか見当たらないわ」 圭も電話をしながら辺りを見回してみる。確かにオフィスビルばかりで店はない。 「まあ、なんとか頼むよ」 「一応助手だしね。そうする。じゃあ、頑張って」 「何かあったらまた連絡する」 「了解です」 電話を切った。 歩道にある電柱に体を寄せる。ポケットから煙草を取り出して、火を灯した。 この場所からなら、慎治が消えたビルに入っていく人物を観察できる。 一つ息を吐いた。 ただでさえ白い息が、煙草の煙も混じり、余計白い。 時々前を行く通行人が、圭に冷たい眼差しを投げかけてくる。 「愛煙家は肩身が狭いな」 呟きながら、まだ長いままの煙草を携帯灰皿に押し付けた。 五分ほど経った時、やけに恰幅の良い、いかにも金持ちといった感じの男が、路地に入っていった。 慎治が消えたビルに、その男も消えていく。 ちょうど入れ違いで、ビルから一組のカップルが出て来た。 その筋の人間である事を強調するかのような、サングラスに高級スーツ、派手な指輪を身につけた男。女からは水商売の雰囲気が漂っている。 大体、ビルの中にあるものの見当がついてきた。 寂れたビルの地下。 朝まで帰らない慎治。 慎治が使い込んだ五百万。 その三つの事実から予想は出来たが、出入りする人間を見て、その予想が確信に変わった。 念の為一時間ほど様子を見たが、やはり入っていくのは金持ちらしき人間と、ヤクザの匂いがする人間だ。 理緒に電話をかける。 今日これ以上見張っても、収穫はなさそうだ。
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