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二十分ほどで事務所に到着した。
「ご飯どうする?」
フルフェイスのヘルメットを脱ぎながら、理緒が尋ねてきた。
そういえば起きてから何も食べていない。時刻は八時に迫ろうかとしている。
「作らないのか?」
「面倒なんだよね。バイク乗せたお礼に奢ってよ」
理緒が仁の店を指差した。一か月ほど顔を出していなかったし、ちょうどいいかもしれない。
バイクは建物の裏に置いて、理緒と店に入った。
いつもより込んでいる。空いていたカウンターの一番奥に座った。
仁の姿が見当たらない。顔を知った店員が注文を取りに来た。
「お久しぶりですね、二宮さん」
「今日は繁盛してるな」
「おかげさまで」
店員が笑顔を見せた。
「仁さんは?」
首を傾げながら理緒が尋ねる。
「新メニューの開発してますよ。最近夢中ですね」
「これ以上メニュー増やすのか? もはやバーとは呼べないな」
「仁さんの趣味みたいなものですからね。また新しくレシピを覚える身にもなって欲しいですけど」
店員が楽しそうに笑った。
「とりあえずビール貰おうか」
「あたしも」
「注文取りにくるまでもなかったみたいですね」
また店員が笑顔を浮かべる。
すぐにビールが運ばれて来た。理緒とグラスを合わせてから、ビールを流し込む。
圭はいつもの様にソーセージを注文した。理緒はお得意のカニクリームコロッケと、出汁巻き玉子を注文している。
「結局、浮気じゃないなら何なの?」
理緒がビールのグラスを置いた。
「まだわからない。見当はついてるけどな。頼久に明日、あのビルを調べて貰うよ」
「自分で調べないの?」
「いつも税金を払ってるんだ。警察は有効に使おう」
「有効な目的とは思えないけど」
「そうかな」
その時、厨房から仁が出て来た。
「一か月ぶりくらいか?」
言いながら、仁が微かに笑う。
身につけた服が少し汚れている。新メニュー作りは本当らしい。
「そうだな」
「仕事はやってるのか? 理緒ちゃんが嘆いてたぞ」
仁が言うと、理緒が照れたように笑った。助手に嘆かれるとは、自分も落ちたものだ。
「今日は仕事帰りだよ」
「珍しい。何の仕事だ?」
「浮気調査」
仁が口元で笑う。
「お前が浮気調査? 冗談だろ」
「冗談じゃない。もっとも、浮気じゃなかったんだが」
手にしたビールのグラスを傾ける。ちょうどその時、料理が運ばれてきた。
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