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「この写真は借りておいても?」
「ええ、結構です」
真紀子が小さく頷く。
さて、他に何を聞けばいいのか。
五年も私立探偵をやっていておかしな話だが、今まで浮気調査などした事がない。
必死に思考を巡らせて、必要な情報を考えた。
「いつ頃から、ご主人はそういう風に?」
「今年の四月くらいからですね。最初は週に一日程度、帰りが遅かったのですが」
今では週に三日から四日。確実にエスカレートしている。
「その、ご主人が使ったお金の額はどれくらいですか?」
「大体、五百万ほどです」
「五百万」
思わず口に出して呟いていた。
春からなら、一年もない期間で五百万を使い込んだ事になる。一体何を貢いでいるのか。
「大体の事情はわかりました。後は、ご主人の会社の住所と、真紀子さんのお宅の住所。それから、真紀子さんの携帯電話の番号をお聞きしても大丈夫ですか?」
「はい。口頭で言えばよろしいですか?」
さすがに口頭で聞いても覚えられそうにない。
「おい。理緒君」
寝室に向けて声を上げた。少しして、理緒が寝室から出てきた。
「はい、先生。いかがなさいました」
先生とはまた。弁護士か何かになった気分。
「紙とペンを用意してくれたまえ」
「かしこまりました」
理緒が再び寝室に入って、手にペンと紙を持ってきた。それをテーブルの上に置いた。
ペンは普通の黒ボールペンなのだが、紙がぺらぺらのルーズリーフだ。これが一番まともな紙だったのだろう。
「すまないね、理緒君」
皮肉を込めて理緒にねぎらいの言葉をかける。
「はい。それでは、失礼します」
用意のないあんたが悪いと言わんばかりの理緒の表情。理緒は再び寝室に入っていった。
真紀子が黒ボールペンを手に持ち、固まっている。
「あの、この紙に書くのですか」
「ええ。何か?」
「いえ」
納得したようには見えなかったが、真紀子が黒ボールペンを走らせ始めた。
しばらくして、書き終わる。ルーズリーフを受け取り、一通り目を通す。
「会社まではどうやってご出勤なさっているのですか?」
「車です」
足がいる。
自分の車は未だに放置している。仁を使うわけにもいかないし、理緒のバイクの出番なようだ。
この寒さの中バイクに乗る事を想像して、圭は小さくため息をついた。
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