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…その後の事は覚えていない。
気付けばオレの目の前には、既に息絶えた男どもがいただけだ。
オレは梓を抱え上げ、廃ビルを後にした。
…バカなオレのせいで僅か20年の人生を散らされたのだ、せめて安らげる場所でゆっくりと眠らせてやりたかった…。
だが、どこにでも空気を読めないバカがいる。
おそらく巡回をしていたであろう公僕は、オレを見るなり肩の無線でせわしなく話し続けていた。
おおかた救援を要請しているのだろう、すぐにそれは理解出来た。
だが、そんな事をされては…梓を休ませてやれない…。
無意識に公僕に近付き、腰にあった拳銃を抜きさり一発喰らわせた。
狙った…とは言い難いが、弾丸は心臓を捉え、公僕はすぐに息絶えた。
その間も、無線からはせわしなく通信が飛び交っている。オレは煩わしさからそれをも撃ち砕いた。
オレが街全体を見下ろせる高台に着いた頃、眼下の街には赤い光が溢れ反っていた。
…そんな事はどうでもいい。オレには…梓を休ませてやらなければならない義務があるからだ。
唯一設置されたベンチに梓を座らせ、傍らに自分も座る。梓の肩を引き寄せ、今はもう温もりすら感じない頬を手で撫でる。
梓の滑らかな肌は、自らの乾いた血に占領されていた。梓のお気に入りの服は、自らの乾いた血で模様を変えていた。梓の生きていた証は……
オレが奪ってしまった。
無惨に…
一瞬で…。
気付けば、オレの頬には涙が伝っていた。
とっくの昔に枯れ尽くしたかと思っていたんだが…
まだまだ枯れてはいなかった…。
止まらない…
拭えば拭う程…
とめどなく溢れて…
景色を歪め…
梓をも歪める…。
上を向いても、ただただ涙は頬を伝う。
…サイレンが近付いてきている。
まだ眠らせてやれてないんだがな…。
だがいい。
いずれは梓と再び会える。そう遠くない未来に。
オレは梓に…
別れのキスをした…
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