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小高い丘を去った後。
龍羅はさらに歩を進めていた。
石くればかりが目につく景色が続く。
そのはるか遠く、視界に男が歩いているのが入った。
どうやら自分が来た方へ向かっているらしい。
遠目で見ても、美丈夫と分かる、大柄で立派な体格の男。
あれが『奴』か。
さっきの人間の待ち人とはあいつということか。
いくら人に化けようと隠しがたい異質の気を放つもの。
まさかとは思うが、しかし、紛れも無くこの気は―
閻魔王。
(ほぅ。酔狂な趣味があるものだ)
まぁ少しは可愛らしい見目だったがな。
あんなちっぽけな人間に閻魔王の興味を引くほどの何かがあるとは思えない。
思えないが、あの人間が言っていた『ずっと向こうの原っぱ』なら、多少はいい暇つぶしが出来るかも知れない。
酷薄な笑みが口の端に浮かんだ。
別の日と言わず、あの人間が戻ってきたら食ってやってもいい。
半妖と違い、力にもならないが、あいつの魂魄は美味いだろう。
あの、ちょっと可愛い顔が苦悶に歪み、この手に落ちるさまを想うと心も足取りも軽くなり、目指す方へ急ぎ出した。
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