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死人に明日は来ない。
だから明日を心配することはいらないのだ。
蛇骨があっけら、と生前を語るのはその杞憂がなくなったせいか。
一切合財を瞬時に片付けてしまえばいいものを、蛇骨は名残り惜しげにちんたらと一つずつ調度品の名を挙げては、消してもらっている。
そんな作業を姿を見せない閻魔王も楽しんでいるらしい。
蛇骨が時折、わざと取り違えた振りをして閻魔王の手を煩わせ、喜んでいる。
龍羅はふと、目についたものに瞳を険しくした。
「…? 蛇骨、なんだその包みは」
蛇骨がちらっと笑った。
「あ、見つかった?」
いつの間にか蛇骨の背に風呂敷包みが括り付けられている。
「だって着たきり雀は嫌だもん。おれに出してくれたもんだしよ、いいじゃねぇ」
「ふん。どうせ小袖だけじゃねぇんだろ」
「えっ」
龍羅の指摘に蛇骨が思わず風呂敷の結び目を握った。
「な…なんで簪入れてんの分かっちまったの?やっぱ龍羅、神様だから?」
そうじゃない。
単にこのこまっしゃくれのすることが透いて見えるような気がし始めたまでのことだ。
だが、龍羅は蛇骨の問いを黙殺し、敢えて蛇骨が思い込んでいるままに仕向けた。
なにもかも見透かされていると意識して、こいつはこれからどう振る舞うものか、興味をそそられたからだ。
「……絶対返さねぇからなっ」
蛇骨はまだ風呂敷の結び目をぎゅっと握りしめている。
取り上げられまい、と身を強張らせて。
「おめぇ……、」
言いかけて、龍羅は言葉を切った。
おれは何を言おうとしていたのだろう。
代わりに、さらに感情を押し殺した言葉が出た。
「おめぇ、ここから芝居小屋とやらにどう行くか分かっているのか」
「え……あ、えっと…空が赤い方を目指せって閻魔王が言ってたっけ」
「確かだろうな」
「なんだよ、嘘じゃねーよ。こないだおれが野っ原で迷ったとき閻魔王が言ったんだって」
「閻魔王な」
厭味をひそませたぶっきらぼうな相槌に、蛇骨はむっときたらしい。
ぷつり、と会話を絶った。
そして閻魔王との作業をばたばたと乱暴に終わらせてしまった。
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