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唇を通して、蛇骨の気がなだれ込んだ。
肉体をなくした魂魄そのものの気が、虹のように彩をなし、光のつぶてを浴びせてきた。
あぁ、これが蛇骨なのだ。
捕えきれない光のつぶて、これが蛇骨なのだ。
龍羅は体の奥底を揺さぶられ、震えがおさまらなかった。
その激情のままに、唇の柔らかな弾力を愉しんだ。
蛇骨は龍羅に突然口づけられ、一瞬拒む仕種を見せたものの、挑むように龍羅の舌を誘い、絡めてきた。
瑞々しい舌の感触に果実のようだ、と龍羅は思った。
こんな感覚は初めてだった。
蛇骨は数えきれないほど、などと生意気を言うだけあって、実に慣れている。
誘い込むくせに逃げをうったり、優しく愛撫をしてきたり、駆け引きに長けている。
だがやがて、息が続かなくなってきたらしい。
頬が茹だったように紅潮していた。
「っ…もっやめ…っ」
苦しげに腕を突っぱねてきた。
龍羅はそんな抵抗が面白く、さらに執拗に追いかけ、唇や頬を啄んだ。
首を捩って睨みあげたり逃げていた蛇骨も、あまりのしつこさにとうとうけらけら笑いだした。
両の足をぱたぱた振って。
小競り合いのようなそれを繰り返すうち、龍羅は蛇骨の喉奥深くに温かな光を探りあてた。
魂魄の核たる光だった。
嫌がらせのつもりだったのはこのことだ。
ちょっと光を吸い出して驚かせてやったら、すぐに戻すつもりだった。
唇を捕え、光を吸った瞬間、蛇骨の抗いがぴたりと止まった。
瞳から輝きが失せた。
龍羅は慌ててその光を戻そうとしたが、蛇骨の瞳が輝きを失ってから急速に体の輪郭がおぼろになり、あっという間にまとっていた小袖や簪ごと消えうせてしまった。
龍羅の腕には何も残らなかった。
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