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地獄門の門扉では亡者達が列をなしていた。
いずれも悄然と我が順を待っている。
ここで地獄行きか極楽行きかが言い渡されるのだが、ここまで来ればおおかたどちらの沙汰が下るかは自ずから知れるものだ。
龍羅はうなだれる群れを宙空から見下ろした。
この期に及んでようやく己れを知ろうというものども…か。
龍羅は自嘲も交え、思った。
この亡者どもに比べ、あいつの亡者らしさの無さと言ったらないな。
知らず、柔らかな笑みが零れた。
そこに、やっと目当てのものの気が近づいて来た。
「存外に早かったな、龍羅」
悠然と閻魔王が現れた。
但し、また人のよぅな姿に変えている。
「どうやらてめぇの筋書きらしいな」
「こちらへ参れ」
龍羅の言葉を肯定も否定もすることなく、閻魔王は腕を振った。
いざなわれたのは小作りな東屋であった。
朱塗りの柱や欄干が色彩に乏しい景色の中、際立って美しく見える。
龍羅はじろり、と一瞥し鼻を鳴らした。
「蛇骨を返してもらおうか」
端的に切り出した。
「おれが来た用件はお見通しだろう」
「そのことだが、今は無理だ」
涼やかなほど、あっさりと閻魔王は受けこたえた。
「ふざけるな!」
龍羅は怒気をはらませた。
気に呼応して辺りの石が浮き上がる。
「しら切ってんじゃねぇ!」
小石が飛び、閻魔王の袖を裂いて抜けた。
「急くでない。これ、この通り、」
ふわり、と翳した手が明るく光った。
龍羅の瞳が大きくなった。
忘れようのない、その光の色。
虹色に混ざり光を散らしながら、魂魄の核が閻魔王の手に現れた。
「哀れな。どんな無体を受けたものか。逃げ帰ってきたのだ」
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