9.風追い

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  『考えてみよ』   奴は前にも言った。 何故この人間に執心するのか考えてみろ、と。   龍羅は東屋の腰掛けに座った。 握りしめていた手を広げた。 残された簪にあらためて見入る。 明るい水色の玻璃玉に鮮やかな赤い蝶が舞っている。 初めて蛇骨を見かけたとき、龍羅の目を引いたのは、この簪だった。   蛇骨の魂魄は大事そうに閻魔王の袖に仕舞われ、地獄門へ伴われ去ってしまった。 ここへ来れば、元の蛇骨がいると思っていた。 ちらとでもあの顔が見たかったのに。   (何故、蛇骨は閻魔王の許に行ったのか…) 龍羅はふと、思い出した。   蛇骨には人間の仲間がいた筈だ。 憎たらしげな目つきをしていた小僧が。 あの小僧のことを悪しざまに言ってやったとき、蛇骨はひどく激昂したのだ。 なのに何故、その相手の許ではなく、閻魔王へ―。   結局は、魂魄は閻魔王に帰属するということか。 (だとすれば、全く滑稽だ。おれの魂魄も奴の掌中に握られているのだ)   それが当たり前で、この地の不可思議は閻魔王に訊けばいい、とあいつは言った。 実にあっけらと。 なんでもないことのように。   (蛇骨…)   会いたい。   想いが小さな涌き水となり、胸に伝いはじめた。
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