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『考えてみよ』
奴は前にも言った。
何故この人間に執心するのか考えてみろ、と。
龍羅は東屋の腰掛けに座った。
握りしめていた手を広げた。
残された簪にあらためて見入る。
明るい水色の玻璃玉に鮮やかな赤い蝶が舞っている。
初めて蛇骨を見かけたとき、龍羅の目を引いたのは、この簪だった。
蛇骨の魂魄は大事そうに閻魔王の袖に仕舞われ、地獄門へ伴われ去ってしまった。
ここへ来れば、元の蛇骨がいると思っていた。
ちらとでもあの顔が見たかったのに。
(何故、蛇骨は閻魔王の許に行ったのか…)
龍羅はふと、思い出した。
蛇骨には人間の仲間がいた筈だ。
憎たらしげな目つきをしていた小僧が。
あの小僧のことを悪しざまに言ってやったとき、蛇骨はひどく激昂したのだ。
なのに何故、その相手の許ではなく、閻魔王へ―。
結局は、魂魄は閻魔王に帰属するということか。
(だとすれば、全く滑稽だ。おれの魂魄も奴の掌中に握られているのだ)
それが当たり前で、この地の不可思議は閻魔王に訊けばいい、とあいつは言った。
実にあっけらと。
なんでもないことのように。
(蛇骨…)
会いたい。
想いが小さな涌き水となり、胸に伝いはじめた。
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