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その涌き水はすぐに波立つほどに溢れ、胸を浸食していった。
どす黒い渦もなにもかも飲み込み、ただひとつの想いが心を決壊させんと押し寄せてくる。
会いたい
会いたい
会いたい
会いたい……
押し寄せる想いは、とめどなく溢れあっけなく決壊し、龍羅を満たし沈めてしまった。
これまで捕らえた標的は、その意思も命も顧みることなく食ってきた。
勿論、そうでなくては魂を保てなかったのだから、それは自分達四闘神にすれば自然の理ではあった。
だが今思えば、あの頃の自分はただ餌を食むだけの存在でしかなかった。
ただ消耗し、消滅していく自分に焦燥感を覚え飢えるばかりの。
こんな想いに満たされることもなく――。
会いに
行かねば。
龍羅はじっと手の中の簪を見つめた。
淡い湖水を閉じ込めたような、玻璃玉。
焦がれても二度と見ることも叶わない、水のいろ。
この赤い舞う蝶にはまだ、
叶うだろうか。
龍羅は地獄門の方角に振り向き、見据えた。
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