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蛇骨はまだ元の姿ではなかった。
ちかちかと瞬いて、まるで龍羅を危ぶみ窺っているようである。
龍羅が手を差し伸ばすと、光は歪んで避けた。
「蛇骨、」
ころころ…と後ろに転がって龍羅の手先から離れていく。
手を払われ、後ずさりされた気がした。
「蛇骨、顔を……見に来ただけだ…」
龍羅が声を絞り出した。
そう言うのがやっとだった。
蛇骨の魂魄は耳を貸そうともせず、ころ、ころ、と床をあちらこちらに転がり散歩でもしている風である。
ただ会いたい、その想いに満たされ昂揚していた気持ちは、
さらに、会うしかない、と、会わなければ、と強く思っていた気持ちは、
あっさりと払い除けられ、次第に昏い胸底深くへ沈み落ちていった。
この人間はおれを必要としないのだ。
ちょっと毛色の変わった獲物を手におさめた気でいたのを、ことごとくひっくり返され、果てにはようやく出した言葉も顧みられることはない。
とんだ道化だ。
龍羅は自分を嗤った。
一体、どんなつもりでここまで来たのか、全く嗤ってしまう。
蛇骨、お前にはおれの意が通るものなどないということか。
龍羅はいつしか手に握りこんでいた簪を口元に寄せていた。
そうして、想いを簪の玻璃玉に強く強く込めた。
「蛇骨、返すものがある」
ぴたり、と光の動きが止まった。
振り向いたように、龍羅の目には映った。
それを機にすぐ傍まで近づいて跪き、光に簪を翳した。
光は暫く簪を前にちかちかしていたが、すぅっと簪を飲み込んでいった。
龍羅は固唾を飲んで見守った。
やがて光が揺らめき、ひょろりと立ち上がった。
なにか形を成していくように見えた。
虹色に光を放ち、半透明に揺らいでいるものの、その形は蛇骨のようだった。
驚き、見入っていた龍羅の胸が強く高鳴った。
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