10.花をたずさえ、

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  「蛇骨…」   龍羅はその半透明の寒天のような姿に手を伸ばした。 蛇骨に龍羅の手を避ける様子は見られなかった。 しかし触れようとした指に感触はなく、頬をすり抜けて指先は中へ入っていった。   「っ!!」   中に入った途端、無数の針が突き刺さったような痛みに襲われた。 その衝撃に思わず指を引き抜きそうになったが歯を食いしばり、耐えた。   まるで針山のように刺し攻撃してくるもの。 龍羅は直感した。   これは蛇骨の唇に触れたとき感じた、光のつぶてだ。   あの時はおれの中に、流星のように数多になだれこみ……おれを魅了し……   あの瞬間まで、蛇骨はおれに心を置いていた。 心を。   だが。 「……おれは人間の心なんてものは分からねぇ。四闘神は元からそう創られたんだ」 龍羅は低く語りかけた。 そしてもう一方の手も蛇骨の中に突き入れた。 その手にも同じように激痛が襲った。 「…ぐっ…!!」 容赦ない攻撃にさすがの龍羅も声が洩れた。 堪えに堪え、刺さってくる無数の針山を両手で握りしめた。   この針と化した光のつぶては蛇骨だからだ。   「元からないのは四闘神には人間の持つような心は必要ねぇということだ」 龍羅は瞳のない蛇骨の目を真っすぐ見つめた。  蛇骨、蛇骨…見てくれ、こっちを。   瞳に想いを込めた。 「だが知るということは出来たんだ。…おめぇ、おれに怒っているんだな」 おれの何に怒っているのかはやはり分からないが。   「こんな痛みを負ったと、言いたいんだな、蛇骨」 魂魄の核になり閻魔王の元に逃げ戻らざるを得ないほどに。 「それでもおれは会いたい。おめぇの顔が見たい」   「おめぇのこの痛み、全ておれがもらう。おれによこしてくれ」   蛇骨が身じろいだ、そんな気がした。   「会いたいんだ…」 激痛に苛まされる両手を必死に動かし、蛇骨を抱きしめた。 しかし、感触のない蛇骨の肌を抱きしめることはやはり、出来なかった。 するり、と龍羅の体は蛇骨の肌をすり抜け、蛇骨と同化し、重なりあった。   瞬間、龍羅の全身におびただしく魂魄の針という針が刺さった。 龍羅は激痛に堪えきれず絶叫した。
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