2.kidnap

4/4

25人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ
  龍羅にがっちりと捕らえられた蛇骨は渦巻く風の中を俯き、じっと堪えていた。 ようやくに風がおさまり、足が地に着くなり、たちまち、むせこんだ。   「も…えへっえへっ💦顔気持ち悪ぃ~口の中、じゃりじゃりだよぅ…あっ髪もぼさぼさーっ!! 簪っ、はあった~良かったぁぁ……あれ?」 視線を左から右にゆっくり移して、 「え?」 蛇骨は首をひねった。 側に立つ……えーと、こいつ誰だ? 「誰?」   一連の騒がしい様に、龍羅は唖然と眺めていた。 人間の唐突な問い掛けに、我に返った。 人間はなおも問い重ねてきた。 「ここどこ? 体中じゃりじゃりする…風呂入りてぇ~」 「風呂だと?」 「だって気持ち悪ぃし」 龍羅は嘲り笑った。 「既に肉体のないものが、風呂など必要か?」   そうだ。 おれにしたって、見ているような、聞いているような、喋っているような、そんな感覚がしている、と思い込んでいるに過ぎない。 全てが錯覚だ、全てが。   胸底から突き上げるこの苛立たしい情動さえも。   「んなこと言ったって、嫌なものは嫌なの。どっか池でもねぇかな~」 ぱんぱん、と小袖をはたくと、人間はてぽてぽと歩きだした。 龍羅は焦り、引き止めた。 「おいっどこへ行く!」 「どこって…こんな荒れ野に突っ立ってたってしょうがねぇだろ~。とりあえず池か何か探すんだよ」 さも、意外な風で見つめてくる。 龍羅は息がせくような、体中がざわめくような気分になる。   (くそっ何なんだ、こんな奴が何だと言うんだ)   「あんたは行かねぇっつーなら好きにすれば? おれはとにかくこんなとこ嫌だから」 龍羅は突如、頭にきた。 知らず、それが口に出た。   「あんたなどと呼ぶんじゃねぇ!」 人間はきょとん、と目を丸くした。 「…そういや、あんた誰?」
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加