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龍羅にがっちりと捕らえられた蛇骨は渦巻く風の中を俯き、じっと堪えていた。
ようやくに風がおさまり、足が地に着くなり、たちまち、むせこんだ。
「も…えへっえへっ💦顔気持ち悪ぃ~口の中、じゃりじゃりだよぅ…あっ髪もぼさぼさーっ!! 簪っ、はあった~良かったぁぁ……あれ?」
視線を左から右にゆっくり移して、
「え?」
蛇骨は首をひねった。
側に立つ……えーと、こいつ誰だ?
「誰?」
一連の騒がしい様に、龍羅は唖然と眺めていた。
人間の唐突な問い掛けに、我に返った。
人間はなおも問い重ねてきた。
「ここどこ? 体中じゃりじゃりする…風呂入りてぇ~」
「風呂だと?」
「だって気持ち悪ぃし」
龍羅は嘲り笑った。
「既に肉体のないものが、風呂など必要か?」
そうだ。
おれにしたって、見ているような、聞いているような、喋っているような、そんな感覚がしている、と思い込んでいるに過ぎない。
全てが錯覚だ、全てが。
胸底から突き上げるこの苛立たしい情動さえも。
「んなこと言ったって、嫌なものは嫌なの。どっか池でもねぇかな~」
ぱんぱん、と小袖をはたくと、人間はてぽてぽと歩きだした。
龍羅は焦り、引き止めた。
「おいっどこへ行く!」
「どこって…こんな荒れ野に突っ立ってたってしょうがねぇだろ~。とりあえず池か何か探すんだよ」
さも、意外な風で見つめてくる。
龍羅は息がせくような、体中がざわめくような気分になる。
(くそっ何なんだ、こんな奴が何だと言うんだ)
「あんたは行かねぇっつーなら好きにすれば? おれはとにかくこんなとこ嫌だから」
龍羅は突如、頭にきた。
知らず、それが口に出た。
「あんたなどと呼ぶんじゃねぇ!」
人間はきょとん、と目を丸くした。
「…そういや、あんた誰?」
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