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 ジンさんが無色透明のエレメンタルで魔術を操ると、唐突に俺の足元が浮いた。  何度体感しても慣れない。つーかバランス取れねえ!  ぐらつく体をなんとか真っ直ぐに保とうとしている内に、前転のような格好で窓枠をくぐり抜け――そして急速な落下感。  い、胃が浮く! 食ったパンが出る!! 「――っ」  声も出ない俺の横を、真っ直ぐな立ち姿勢のまま、ジンさんは平然と降りていく。青空と新緑の無駄な爽やかさが、目に焼き付いた。  軽い衝撃で地面にたどり着く。ぶっちゃけいつも通りしりもちをついた俺は、けらけら笑って見下ろしてくるジンさんを不満を込めて見上げた。  ジンさんの頭の後ろ、開いたままの4階の窓が目に入る。  そしてそちらの方から聞こえてくる昼休憩終了のベルと、「すみませーん、誰か居ないんですか?」という不機嫌そうな誰かの声。  多分、うちの客だ。  またクレーム来るんだろうなあと思いながらも、俺は笑って立ち上がった。  よく晴れた初夏の昼下がり、清々しい風が吹いている役所の外は、そりゃもう爽快だった。
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