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「あー……まあ、俺のダチは昔、アレをハエ叩きでやったっつってたけどな」
とんっとジンさんが準備運動のように跳ね、おもむろに畑へ足を踏み入れる。無駄のない動きだ。
ジンさんは特別背が高いわけでも筋肉質なわけでもないけど、こうやって後ろから見ているだけでも場慣れしていることは分かる。
荒事が大の得意なのだ。
「どんな超人ですかっ、その人はっ」
「今は首都の方で管理職っつったかねえ。当時は騎士団に居たらしい」
「いやいや。なんで騎士がハエ叩き持参してんすか」
おかしいだろ。無茶な話にとにかく突っ込みを入れる。
でも、ジンさんが突然こんな馬鹿話をしてくれたのは、俺が緊張しているのを知ってのことなのかもしれない。
普段は無茶ばかり言うくせに、こういうときだけはまぁ、優しい。
俺は覚悟を決めて上着を脱いだ。持っていた虫かごは地面に置く。
俺の位置を確認するように目だけを動かして、ジンさんは再び青のエレメンタルを齧る。
瞬間、その手から青い波のような光がぼうっと広がって虫取り網を覆いつくした。
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