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空が真っ暗になる前に下宿に帰るのは久しぶりだった。
リンゼン中央区役所から大通りを東に真っ直ぐ下った商業区の外れにぽつんと立つ2階建てのアパート。隣に住む老夫婦が管理しているボロくてやっすい公営宿舎が俺の家だ。
「あらあ、テアルくん、久しぶりに早いのねえ。夕ご飯は?」
庭の手入れをしていたらしい老婦人がにこにこしながら「一緒にどうかしら?」と声をかけてくれた。
リンゼンを離れて暮らしている孫と年頃が近いらしく、顔を見かければ気遣ってくれる。
メシの誘いが嬉しくないわけがないので、「食います!」と即答して、俺は階段を駆け上がった。
鍵を開けて鞄を中に放り込んでドアを閉めて――ふと、ポストから紙が飛び出ていることに気づく。
「ん?」
郵便だ。珍しい。
さびかけた口からその手紙を引っ張り出す。
上質な手触りの厚い封筒に、深紅の封蝋。表には流れるような美しい文字で俺の名前が。
そして、裏側をひっくり返すと――
「あ」
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