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元々僕は、命を懸けるような仕事とは無縁の人間だった。新興企業ナービスの新入社員として四六時中机に向かって真面目に働き、不断の努力の末、それなりに高い地位を手に入れた。愛する人にも巡り会え、婚約もした。収入は安定していたので、僕達は何不自由ない暮らしを満喫できていた。僕達は幸せだった。思えば、あの頃が人生で一番輝いていた時期だったのかもしれない。しかし、そんな日々にも終りが訪れる。妻の妊娠という素晴らしい出来事に狂喜していた直後、住んでいたベイロードシティが企業間の抗争に巻き込まれ、僕達市民は逃げざるをえない状況となった。冷徹な企業群の追撃隊の手に掛かり、無抵抗の市民が次々と死に絶えていく最中、僕達は必死に逃げ続けた。真の安息の地を求めて。
やがて僕達が辿り着いたのは、比較的新しい統一複合都市―後にサークシティと呼ばれることになる場所だった。流石に新しく物件を購入するには大金がかかったが、残っていた貯蓄のほとんどを絞り出しながらも、少し広めのマンションの一室を獲得するまでには至った。文句は言ってられない。生き残ってここまで来れただけでも、僥倖だったのだから。
そしてサークシティに着いた次の日、それは起こった。
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