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緩やかな坂を上りきった先に、その家はあった。
元々は祖父の別荘であり、僕の遊び場であった。
祖父が亡くなり、僕も学生になり、数年。
忙しくなかなか訪れることができなかった。
この家は、僕と祖父しか入れない秘密の別荘。
岬からの風をうけ、あちこち痛んでいるが、ゆるやかに、夏を過ごすには不自由のない家だ。
無邪気な僕とそれを、テラスから眺める祖父。
それが、数年前までの夏。
その時と変わらず、やさしく潮騒が響き、風が吹く。
リュックサック片手に坂を登り、変わらぬ別荘がみえてきた時。
僕はなんとも言えない感覚を味わった。
それは、嬉しさでも、懐かしさでも、寂しさでもなく奇妙なもので。
形容しがたいそれは、いつまでも胸に残った。
ぐるりと別荘を一周し、変わりがないことに安心した。
そして、祖父と僕しかしらない鍵の隠し場所を探り当て少し古びた鍵を手にすると懐かしさが込み上げてきた。
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