オモイデ

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故郷からの手紙を読み終えると隣の寝床から声を殺した泣き声が聞こえた。 どうやら隣人も自分と同じく寝付けなかったようだ。 今この寝屋には少数の人間しかいない。 いつもなら無数の男達のイビキと熱気に包まれているのだが、今日に限ってはそうではなかった。 ほとんどの者が酒を飲むか、遊廓に足を運び、この世の別れを精一杯惜しんでいる。 自分はと言うと、女朗と遊ぶ気にもなれず故郷からの手紙を読んでは懐かしさに耽っている。 この世の別れを惜しむ者もいればそうでない者もいる。 自分の場合はもうとっくに別れは済ませてあった。 そう・・・ あれは今から三月も前の話だ。 故郷から共にこの航空隊に来た友と非番を良いことに山の梺まで足を運び酒を煽った五月晴れのあの日。 「しかし、こんな天気のいい日が続くと戦争やってる気分にもならねぇなぁ。」 そう言い、湯呑み一杯に注がれた濁酒を呷った。 「そりゃそうだ。毎日訓練ばかりだからな。しかし、まぁ本当にいい天気だ。」 「日本晴れってやつだなぁ。あとこれで富士と桜でもあれば文句はないんだがなぁ。」 「無茶言うな。五月に桜は咲かないよ。」 葉桜を酒の肴にしながら酒はすすんだ。
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