サクラチル

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サクラチル

「酒はあれど花がないか・・・」 青い空を肴に飲むのも悪くはない。そう言う気分にさせてくれる青空だった。 「まぁ俺達にすればこれで十分か・・・」 独り言を呟いたつもりだったが相手には十分聞こえていたようで、何度もこちらを横目で見ながら懐に手を入れ何かを探しているようだった。 そしておもむろに何かを差出し満面の笑みで見せ付けてきた。 「どうだぁ。」 酒臭い息と共に差し出されたのは一枚の札だった。 「花は花でも花札だぁ。」 「おっ。粋な事をするな。」 「まぁ絵に書いた餅より風情があるだけいいよな。」 そうして花札の桜を酒の肴にしながら花見酒を楽しんだ。 酒を煽り思い出話に華を咲かせていたのだが、その話題も尽き自然と戦況の話になった。 「聞いたか。」 「神風の話か。」 今まで、まことしやかに囁かれていた噂の特攻隊の話である。 「俺はその第一陣に選ばれた。」 噂には聞いていたが本人の口から初めて聞かされた。 「そうか。」 他に何も言葉が出て来なかった。 それ以上は会話もないまま宴は終わりを告げる。 何も会話がないまま基地に戻ってきた。 そしてお互いの寝屋に戻る時に先程の花札を渡され「いつか宴の続きをしようやぁ」と耳打ちされ、手を振る後ろ姿を目に焼き付ける事しかできなかった。 それが彼の最期の言葉だった。
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