1/1
27人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ

いくら時代が進もうとも太陽は東から昇り、夜の色に染まった部屋に光を灯す。 暗く物静かな屋敷に響き渡る足音。 その音に反応するように少女はいつもの場所で主を待つ。 いつもの時間にいつもの場所に少女を造った主が起きて来る。 それを見越しいつものように一日のスケジュールを手渡す。 「おはようございます。博士、本日のスケジュールです。」 男の名前はノア・シュタイン。 ロボット工学において天才と謳われた「マリオネット」の生みの親である。 男はいつものようにスケジュールに目を通す。 「発注していたパーツが届いていないようだがどうした。」 「先日から何度も連絡をとっているのですが、いまだ一度も返答がありません。」 「なら午後から直接話を聞きに行け。」 「わかりました。しかし博士、なぜあの部品工にこだわるのですか。腕がいいのは認めますが、いつかまた納品が遅れることを考えれば他の部品業者の方が良いのではないでしょうか?」 「あれほど精密に仕上げる業者もそうはいまい。」 「たしかに1つ1つの仕上がりはよくできています。ですがいつ届くか解らない物を待ち、研究自体の効率が落ちるのは得策ではないように思われます。」「実験で誤差を出すわけにはいかない。少しでも良いものを使うのは当然の事だ。」 「ですが他の業者でも一定のレベルはクリアできています。私は何故博士があの部品工にこだわるかわかりません。」 今まで無表情であった男の顔に少しの変化が見えた。 「ビス、口が過ぎるのではないか。」 「もうしわけありませんでした。」 男はビスの返事を受け、粗方の内容を確認した上で書類をビスに突き返した。 「これくらいなら許容範囲だ大目にみてやれ。それで遅れた理由を私に報告しろ。」 「わかりました。」 男はそう言うといつものようにカツカツと靴を鳴らせ自室に戻っていった。 「博士はいつも一人。この大きな屋敷も私と博士の二人だけ。この施設での仕事は新しいアンドロイドの研究。博士はこの研究所で何年もアンドロイドの研究を続けている。私のメモリーの中で博士がだれかといるところを記録したことはない。博士はいつも一人だ。 そしてどこか寂しそう・・・」
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!