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「あー、やっぱり美味しいわ。」
ぱくり、と香ばしい匂いも噛みしめるように食べているのは、アーモンドの香りが混じったシンプルイズベストな焼き菓子代表バタークッキー。
「良かったー、これはね…」
クッキーを挟み向かいに座っている子は、嬉しそうにえへへ、と少しはにかみ返してくれた。
放課後の料理室。特有のシンク台付長テーブルに私たちは座って茶話会…ではなく。
「オススメしてくるだけあって星は5、あげたくなるわー。」
「わぁ…5なんて初めて聞いたかも…」
お行儀の良いリスを思わせる食べ方でそのクッキーを食べていた仕草がぴた、と止まった。
「んー、個人的意見含みだけど…好きな味、なんだー……これ。」
ぱくり、ともう一枚。
実は私は普通科、向かいの彼女は家庭科製菓部と全く接点がない。
ただ、唯一二人を繋げたのは。
「バターを控えてある分、アーモンドパウダーでアピールしている。でもただ主張だけじゃない控えめに何かはいっている…かも。」
と、調理はからきしなのに味を正確的確に当てられる舌をもっている所で出会ったのである。 うーん、こんな縁もありか。
「……わぁ……分かるんだ、隠し味なのに…」
「うーん、分かっていても…あれ?」
「? どうしたの?」
そうだ。
いつもなら、彼女は聞いた素材を…
「すごいじゃん…」
「……?」
彼女をみてそう呟いたので何事? と首を小さく傾げる。
「や、だってさ…、隠し味まで気付いていたんだ。」
日々精進。
彼女は私が知るかぎりでも――私が言って何だが頑張っている子だ。
「うん、私がいなくてもさ…自信もてるよ。」
ぱく…
クッキーを食べて誤魔化してみる。
『あの…、お願いします! 味を見てください!』
深々と頭を下げて頼んできた彼女。
『作っているときはイメージしているのだけど…仕上がってからが自信…なくて…そ、それで…他の人の意見も聞きたいのです…』
出会いはちよっと、アレだったなぁ…。
でも
『美味しいよ』
って、伝えたときの笑顔だとか。
『塩が多いかな~。』
と言ったら真剣に頷いて。
オススメのお菓子をこうやって……一緒に食べたり、勝負したり……
――ああ、そうか。
淋しい、なんて言うものじゃないけど、私はこの時間がいとおしく思っていたんだ。
「気付くのが遅かった…」
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