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――それは、まったくの偶然だった。
ある土曜日の昼下がり。
高校は休みで、部活に励んでいるわけでもなく、結果として暇を持て余していた俺は、ちょっと散歩でもしようかと思い立って家を出た。
本当なら勉強の一つや二つくらいするべきなんだろうけど、まだ二年生、そんなに焦ることもないだろう。
何をするでもなくフラフラと歩いていると、
「……ん?」
ふと、見慣れないものが目に入る。
俺の住む家がある住宅街から、少し離れたところ。
住宅街と言うには活気があり、商店街と言うには閑散とした、中途半端な場所。
――そこに、一件の喫茶店が建っていた。
そういや、ちょっと前から内装工事してたなー、なんて思いつつ、数秒ほど思案する。
「……よし、入ってみるか」
どうせ暇なわけだし、だったら、覗いてみるのも悪くない。
人間、好奇心を失ったら負けだみたいなことを、誰かが言ってたような気がするし。いやまあ、だから何だと言われればそれまでだけど。
――カランカラン
扉を押し入ると、カウベルの心地よい音が店内に響く。
カウンター席が楕円上に五つと、四人掛けのテーブルが二つしかない、こぢんまりとした店だった。
「――い、いらっしゃいませ」
どこかぎこちない挨拶。
割と良い雰囲気だな、なんて思いながら店内を見渡していた俺は、その声で、初めてカウンターへと目をやって、
「……っ」
そこにいた人に、完全に、意識を奪われた。
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