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――綺麗な人だった。
多分、年は二十歳前後。
大人びた顔立ちに、長い黒髪。
おでこで三角形に縛ったバンダナが、よく似合っていた。
でも、何より俺の目を引いたのは……その、無邪気な笑顔。
大人びた、綺麗な顔立ちなのに、浮かべる笑顔は屈託がなくて子供みたいで……多分、一目惚れってやつだと思う。
俺は完全に、その人から目が離せなくなっていた。
「……あ、あの?」
――と、席に着く気配のない俺を不思議に思ったのか、怪訝そうにこちらを伺ってくる。……ちょっと、小動物っぽい仕草だ。いやまあ、そんな事より。
「あ、いえ、何でもないです」
出来る限り平静を装いつつも、カウンターの真ん中の席に腰をかける。
「えっと……コーヒーを一つ」
ロクにメニューを見もせずに、そう注文する。
「はい、コーヒーですね」
朗らかに告げながら、俺に背を向ける女の人。
コーヒーメーカーを弄る後ろ姿を眺めつつも、何とはなしに話しかけてみる。
「えっと……開店したばっかですよね、この店?」
「はいっ。っていうか、今日が開店初日で、貴方が初めてのお客さんです」
「えっ、そうなんですか?」
……なんか、無性に嬉しいんだが。
――少し調子に乗って、他にも質問してみる。
正直なところ……もっと、彼女のことが知りたかった。
「名前、なんて言うんですか?」
「え……名前、ですか?」
少しキョトンとする彼女だが、そんな仕草もまた、可愛らしい。
「えっと……『オリーブ』、です」
「……は?」
――オリーブ、さん?
いや、珍しい名前とか、そーゆー次元じゃないよな……
「あ、もしかして、ハーフの方なんですか?」
それなら、その外国人ライクな名前も納得がいく……と、思ったのだが。
「え?うぅん、私、日本人ですよ?」
不思議そうな顔で、そう返されてしまった。
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