出会い

4/6
前へ
/76ページ
次へ
「……?」 「……?」 二人してはてなマークを頭に浮かべること、数秒。 「……あっ!」 先に声を上げたのは、女性の方だった。 「えっと……名前って、もしかして……私の?」 ……なんか今、すっごく大前提な事を聞かれた気がするんだが? 「はい、そうですけど……?」 意味がわからないながらも、取りあえず答えてみる。 「わ、わ……ごめんなさいっ!」 途端、真っ赤な顔でこっちを振り向いたかと思うと、勢いよく謝られてしまった。 「そ、その……オリーブは、店の名前、です……」 「あぁ……」 なるほど、そういう事か。 これは明らかに、主語が足りなかった俺の方にも非がある。 ――改めて。 「あ、俺は、春って言います。岩戸春。……それで、貴方は?」 俺の問いに、彼女はまだ顔を赤くしたまま、答えてくれた。 「美月です、山瀬美月。えっと……呼ぶときは、名前でお願いします」 ……何かこだわりでもあるのだろうか。 そんな思いが顔に出ていたのだろう、美月さんははにかみながら言った。 「好きなんです、自分の名前」 そうして、嬉しそうに笑う。 その無邪気な笑みに目を奪われつつも、俺は言った。 「じゃあ、俺も名前で読んで下さい。じゃないと、不公平ですから」 「不公平って……ヘンなの」 クスクスと笑う美月さん。 まあヘンなのは当たり前で、何故って『不公平』なんてのは取って付けた理由であり、本当は単純に、美月さんに名前で呼ばれたかっただけなんだから。 ……だってほら、その方が親しくなれそうだし。まあ、我ながら下心満載でどうかとは思うけど。
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!

62人が本棚に入れています
本棚に追加