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「……?」
「……?」
二人してはてなマークを頭に浮かべること、数秒。
「……あっ!」
先に声を上げたのは、女性の方だった。
「えっと……名前って、もしかして……私の?」
……なんか今、すっごく大前提な事を聞かれた気がするんだが?
「はい、そうですけど……?」
意味がわからないながらも、取りあえず答えてみる。
「わ、わ……ごめんなさいっ!」
途端、真っ赤な顔でこっちを振り向いたかと思うと、勢いよく謝られてしまった。
「そ、その……オリーブは、店の名前、です……」
「あぁ……」
なるほど、そういう事か。
これは明らかに、主語が足りなかった俺の方にも非がある。
――改めて。
「あ、俺は、春って言います。岩戸春。……それで、貴方は?」
俺の問いに、彼女はまだ顔を赤くしたまま、答えてくれた。
「美月です、山瀬美月。えっと……呼ぶときは、名前でお願いします」
……何かこだわりでもあるのだろうか。
そんな思いが顔に出ていたのだろう、美月さんははにかみながら言った。
「好きなんです、自分の名前」
そうして、嬉しそうに笑う。
その無邪気な笑みに目を奪われつつも、俺は言った。
「じゃあ、俺も名前で読んで下さい。じゃないと、不公平ですから」
「不公平って……ヘンなの」
クスクスと笑う美月さん。
まあヘンなのは当たり前で、何故って『不公平』なんてのは取って付けた理由であり、本当は単純に、美月さんに名前で呼ばれたかっただけなんだから。
……だってほら、その方が親しくなれそうだし。まあ、我ながら下心満載でどうかとは思うけど。
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