プロローグ

2/2
前へ
/191ページ
次へ
‐Side‐ ‐?‐ 俺は深く深呼吸し、際立つ緊張と恐怖を、少しだけ和らげた。 それでも際立つ緊張と恐怖は、無限大に溢れている。 体が、緊張と恐怖に反応するように、小刻みに震えていた。 一見、と言うより普通の学校の廊下の景色が、いつもと違うように見える。 俺は、視点をただ一点だけを焦点に定め、睨み付けるように見つめていた。 1‐4の教室の扉は、まだ動く気配が一向にない。 この扉が開けば、俺は早速、震えている右手の包丁を使う。 相手は、あんな【恐ろしい力】を持っているんだ。 不意討ち位でしか、あんな恐ろしい相手に勝てる筈もない。 そう……たとえ不意討ちをしても勝算なんて限りなく0なんだ。 こればっかりは、どうにもこうにも、ならない。 それでも俺は、この包丁で、アイツを殺さなきゃならない。 どこからだったかな――。 こんな事になったのは――。 扉が微かに、音を出して動いた。 思わず跳び跳ねたけど、きつく包丁を握り、扉を睨み付けた。 ガラ――ガラ――!!僅かに少しずつ、ゆっくりと開き続ける扉。 俺の目は、既に殺人鬼のような、鋭く、恐ろしい目をしていた。 扉を開けて、そして目の前にいる俺見て、目を見開くアイツ。 俺は針のような鋭い目をアイツに向けてこう言った。 「今、【コレ】を向けられてる心境は?」 コレとは勿論、包丁の事であり、包丁を少し上げてアイツの顔の真ん前に向ける。 「……フフフ♪」 アイツは笑っている。今までと同じ、笑い方。笑い声。 笑顔。包丁を向けられてるのに笑顔。 「…何がそんなにおかしい!!」 俺は思わず声を荒げて、首筋に包丁を……。 包丁は首筋を霞めて、スーッと血が滴り落ちる。 これは、俺の威嚇だった。 と、同時にアイツに言い表せない程の恐怖を拭う為の手段でもあった。 ここまですれば流石のアイツも恐怖するはず。 アイツもそう、人間なんだから。 恐いモンは恐い。 そうだろ……? 「アハハハハハハははハハハハハハはハハははは!!」 しかし、アイツはそんな俺の考えさえも凌駕していた。 「ハハハ……刺してみれば」 そう言えば、無防備を表すように両手を広げた。 「あああああ!!」 もう俺には何がなんだか分からなかった。 “この時”はほんと、分からなかった――。
/191ページ

最初のコメントを投稿しよう!

225人が本棚に入れています
本棚に追加