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‐Side‐ ‐?‐
俺は深く深呼吸し、際立つ緊張と恐怖を、少しだけ和らげた。
それでも際立つ緊張と恐怖は、無限大に溢れている。
体が、緊張と恐怖に反応するように、小刻みに震えていた。
一見、と言うより普通の学校の廊下の景色が、いつもと違うように見える。
俺は、視点をただ一点だけを焦点に定め、睨み付けるように見つめていた。
1‐4の教室の扉は、まだ動く気配が一向にない。
この扉が開けば、俺は早速、震えている右手の包丁を使う。
相手は、あんな【恐ろしい力】を持っているんだ。
不意討ち位でしか、あんな恐ろしい相手に勝てる筈もない。
そう……たとえ不意討ちをしても勝算なんて限りなく0なんだ。
こればっかりは、どうにもこうにも、ならない。
それでも俺は、この包丁で、アイツを殺さなきゃならない。
どこからだったかな――。
こんな事になったのは――。
扉が微かに、音を出して動いた。
思わず跳び跳ねたけど、きつく包丁を握り、扉を睨み付けた。
ガラ――ガラ――!!僅かに少しずつ、ゆっくりと開き続ける扉。
俺の目は、既に殺人鬼のような、鋭く、恐ろしい目をしていた。
扉を開けて、そして目の前にいる俺見て、目を見開くアイツ。
俺は針のような鋭い目をアイツに向けてこう言った。
「今、【コレ】を向けられてる心境は?」
コレとは勿論、包丁の事であり、包丁を少し上げてアイツの顔の真ん前に向ける。
「……フフフ♪」
アイツは笑っている。今までと同じ、笑い方。笑い声。
笑顔。包丁を向けられてるのに笑顔。
「…何がそんなにおかしい!!」
俺は思わず声を荒げて、首筋に包丁を……。
包丁は首筋を霞めて、スーッと血が滴り落ちる。
これは、俺の威嚇だった。
と、同時にアイツに言い表せない程の恐怖を拭う為の手段でもあった。
ここまですれば流石のアイツも恐怖するはず。
アイツもそう、人間なんだから。
恐いモンは恐い。
そうだろ……?
「アハハハハハハははハハハハハハはハハははは!!」
しかし、アイツはそんな俺の考えさえも凌駕していた。
「ハハハ……刺してみれば」
そう言えば、無防備を表すように両手を広げた。
「あああああ!!」
もう俺には何がなんだか分からなかった。
“この時”はほんと、分からなかった――。
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