彼は憎悪に絶対服従

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俺が嫌な予感を感じているのは、れっきとした根拠がある。 夫婦喧嘩が酷く激しくなって来ているのもあるけどやはり、父の帰りが遅くなってきている事だ。 浮気である可能性は、俺から見ても“まさか浮気か”と感じるので、母がそれを感じない訳が無かった。 実際に母が、離婚届けの書類をじっと見つめていたのを何度か見た事があるから恐らく母も感ずいているはず。 そして今日は泊まりがけで出張らしい。今日この日までそんな事は一度も無かったのだから、絶対に浮気だと俺でも分かった。 浮気で旅行するんだったらもっとましな言い訳をしたらどうなんだ。 朝、家を出る父の姿に、俺は口に出さず、心の中で毒舌を吐いたのを思い出した。 「基矢(モトヤ)、今日は大事な話しがあってね……」 そんな根拠がある訳で、母がこう切り出してきても俺はたいそう驚く事はなかった。 「…何?」 「あのね……実はお母さん、お父さんと離婚する事になったのよ」 「……」 分かっていた。分かっていたけど、やっぱり直接言われると、ショックな気持ちになるのを止められないみたい。 一応、俺は冷静さを保ちたくて、口を閉じている。何故なら、開けば、感情がどんどんと溢れて来そうで、口を開こうにも開けなかった。
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